東京地方裁判所 平成6年(特わ)173号 判決
国籍
韓国
住居
東京都江戸川区平井一丁目七番七号
ノヨネフィル平井二〇五号室
会社役員
利川守信こと任守信
一九五〇年一二月一七日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官加藤昭、弁護人権藤世寧、同山田宰各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年一〇月及び罰金一億五〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都江戸川区平井五丁目三四番一号(平成六年一月以降は、同区平井一丁目七番七号ノヨネフィル平井二〇五号室)に居住し、同区東小松川四丁目四三番九号等においてパチンコ景品の交換業等をしているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成元年分の実際総所得金額が六億〇二六四万五六二七円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年三月一三日、東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が四〇五三万四九五〇円で、これに対する所得税額が一五一六万〇五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億九六二一万六〇〇〇円と右申告税額との差額二億八一〇五万五五〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 平成二年分の実際所得金額が八億五五三二万〇六〇七円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年三月一五日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が八五六〇万八六〇〇円で、これに対する所得税額が三七六九万三〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四億二二五四万九〇〇〇円と右申告税額との差額三億八四八五万六〇〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書一四通
一 任長信(二通)、梁弘吉、国枝昇三、嶋津静雄、本堂良一(二通)及び任祥永の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、期首商品棚卸高調査書、仕入高調査書、期末商品棚卸高調査書、共同事業分配収入調査書、給料賃金調査書、減価償却費調査書、地代家賃調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、接待交際費調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、アルバイト賃金調査書、警備料調査書、特別交際費調査書、雑費調査書、買場開設費調査書、歩戻し金調査書、支払利息調査書、雑損失調査書及び領置てん末書
一 検察事務官作成の歩戻し金(二通)及び税務署所在地についての各捜査報告書
判示第一の事実について
一 検察事務官の作成の水道光熱費及び買場開設費についての各捜査報告書
一 押収してある所得税確定申告書等一袋(平成六年押第一四七七号の1)及び収支内訳書一袋(同押号の3)
判示第二の事実について
一 押収してある所得税確定申告書等一袋(同押号の2)及び収支内訳書一袋(同押号の4)
(法令の適用)
一 罪条
判示の各所為につき、所得税法二三八条一項(罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)
二 刑種の選択 懲役刑と罰金刑を併科
三 併合罪の処理
判示の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で処断する。
四 労役場留置 刑法一八条
(量刑の理由)
本件は、パチンコ景品交換業を営んでいる被告人が、右業務を円滑に行うために暴力団関係者らに薄外で支払う多額の現金を捻出し、将来自らパチンコ店を経営するための開業資金を蓄積しようと考えたほか、もともと可能な限り納税額を少なくしたいという気持ちがあったことから、主として売上及び共同事業分配収入を除外するという方法により、二年度にわたり、自己の所得を合計一三億三一八二万円余少なく見せかけ、合計六億六五九一万円余の所得税を脱税したという事案であり、ほ脱率も通算約九二・六パーセントに達している。脱税額はこの種事犯の中でも高額の部類に属するし、ほ脱率もかなりの高率である。また、動機に特に酌むべき点があるともいえない。このような本件の脱税額、ほ脱率、犯行態様等のほか、この種事案については一般予防の必要性が高いことをも考慮すると、被告人の刑事責任は相当重いといわざるを得ない。
他方、本件脱税の手段は、比較的単純なものであり、被告人は売上除外をしつつも、各店舗の売上票は破棄せず残していたこと、ほ脱所得の大半は、現金及び仮名借名の銀行預金として残しており、自己の個人的遊興等に費消してはいなかったこと、被告人は、国税当局の査察を受けて以来、事実を認めて調査及び捜査に協力し、当公判廷においても真撃な反省の態度を示していること、被告人は、本件二年度分の所得税及び地方税を附帯税を含め完納していること、被告人は、有限会社を設立し、顧問税理士を採用し、二度と脱税事件を起こさないような経理体制の確立に努めていること、被告人には古い罰金前科一犯以外には前科がないこと、被告人は、本件につき二〇日余り身柄を拘束されたこと、起訴後、クモ膜下出血により倒れ、その後も後遺症が残り、通院加療を受け続けていることなどなど、被告人に対し有利に斟酌すべき事情も認められる。
当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮した上、被告人については、反省状況等酌むべき点が少なくないとはいえ、前記とおりの脱税額、ほ脱率等を軽視することはできないので、刑の執行を猶予するのは相当でないと判断したが、刑期及び罰金額については、反省状況等を十分に斟酌して主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役三年及び罰金二億円)
(裁判官 安廣文夫)
別紙1
修正損益計算書
〈省略〉
別紙2
修正損益計算書
〈省略〉
別紙3
ほ脱税額計算書
平成元年分
〈省略〉
平成2年分
〈省略〉